第10回(2022年度)ジャポニスム学会奨励賞 |
受賞者:Helena Čapková氏(ヘレナ・チャプコヴァー氏)
対象業績:著書『ベドジフ・フォイエルシュタインと日本』 2021年6月 成文社(阿部賢一訳)
ジャポニスム学会賞/奨励賞について
本学会は、近代欧米における日本文化の伝播、浸透の跡を調査・研究し、その成果に基づいて東西交流の実態をあきらかにし、今日の日本および全世界の文化発展に寄与することを目的としています。ジャポニスム学会賞は、会員による優れた業績を顕彰するとともに、ジャポニスム研究が一層拡大し、広く一般に浸透することを期待して1980年に設定され、これまでに37人の方々が受賞されました。また、2013年には今後の活躍が期待される研究者の活動を奨励することを目的として、ジャポニスム学会奨励賞が創設されました。
選考経過
2020年4月1日〜2022年3月31日までに日英仏語で発表された、ジャポニスム研究に寄与する学術性の高い著作(著書、論文、評論、翻訳)、展覧会企画、およびデジタル出版やリポジトリで公開された博士論文など)を対象に、公募制により学会員から対象業績を募りました。それをもとに本年8月に学会賞奨励賞選考委員会で厳正な選考を行い、9月の理事会にて受賞者を決定いたしました。
授賞理由
本書は、チェコの建築家・舞台美術家であるベドジフ・フォイエルシュタイン(1892-1936)に焦点をあて、戦間期における日本とチェコの人物とデザインの往来を、膨大な資料を駆使して辿っている。これまであまり知られていなかったフォイエルシュタインの活動や作品のみならず、チェコ出身の建築家の系譜を明らかにし、チェコと日本の密接な文化的交流を示したことは、ジャポニスム研究に新たな領域を加えたといえるだろう。フォイエルシュタインという人物の評伝として、また、戦間期の日本とチェコの人的ネットワークの研究として、ジャポニスム学会奨励賞にふさわしいと評価された。
本書を構成する11の章の多くは建築家としての活動と作品をとりあげており、日本の建築の近代化・国際化に果たした役割が語られる。特に5章から7章は、聖路加国際病院、ソ連大使館、ライジングサン石油会社など、フォエイルシュタインがアントニン・レーモンド事務所で担当した建築が対象である。その建設の経緯は興味深いものであるが、建築の平面や意匠の分析は、やや不十分な印象を受ける。1920年代から30年代における世界各地のモダニズムの勃興と影響関係については、すでに多くの研究があり、「チェコのモダニズム」「日本のモダニズム」といえるほど単純ではないことは周知の事実であろう。ドイツ(バウハウス)、フランス(オーギュスト・ペレ、ル・コルビュジエ)、さらにアメリカで土浦が出会ったオーストリアの建築家(ノイトラ、シンドラー)を含めて、フォイエルシュタインを位置付けることができれば、より広範囲な視野でのトランスナショナルな研究になるだろう。さらなる発展を期待したい。
チェコ語からの翻訳である本書の存在は貴重である。しかし翻訳につきものの問題がここにも生じ、部分的ではあるが、文章の明快さ、人名の読み方などに課題が残る。また海外の研究者に共通することだが、特に日本語の資料・先行研究の精査が不足し、その結果誤認もいくつか生じてしまっている。
しかし多少の疵瑕があるものの、日本に建築のモダニズムが導入された時期におけるチェコ系建築家の活動を活写した本書は他に置き換えがたい価値をもっている。また彼らが日本の建築および文化をどう受けとめたかも重要な点であり、巻末の資料、フォイエルシュタインによる「日本の建築について」などを含め、今後ジャポニスム研究における貴重なレフェランスとなるであろう。
(ジャポニスム学会賞奨励賞選考委員会)
第10回ジャポニスム学会奨励賞受賞者紹介
ヘレナ・チャプコヴァー氏(Helena Čapková)
【略歴】
2006年 ロンドン大学大学院SOAS修士課程 修了
学位:Master of Arts
2008年 カレル大学(プラハ) 修士課程 修了
学位:Master of Arts
2012年 ロンドン芸術大学大学院博士課程 (Transnational Art, Identity and Nation (TrAIN) Research Centre) 修了
学位:PhD Art and Humanities Research Council (AHRC) 奨学生
現在、立命館大学 グローバル教養学部 准教授
【主要な業績】
Bedřich Feuerstein, architect. Prague – Paris – Tokyo, National Technical Museum, English and Czech version, exhibition catalogue, Prague, 2022.
1920–2020 PRAGUE–TOKYO / EXCHANGES, PARALLES, COMMON VISIONS, Jaroslav Fragner Gallery, Prague, 2021,
Architekt Bedřich Feuerstein – Cesta do nejvýtvarnější země světa (Architect Bedřich Feuerstein – A Journey to Japan), in Czech with English and Japanese summary, Aula and KANT publishers, Prague, 2014. The Japanese version 『ベドジフ・フォイエルシュタインと日本』was published Seibunsha, Tokyo, 2021.
Laboratory of Czech Book Design 1920s–1930s From the collection of Nakanoshima Museum of Art, Osaka/ 『キュレトリアル・スタディズ13: チェコ・ブックデザインの実験場 1920s–1930s 大阪中之島美術館のコレクションより』, Museum of Modern Art Kyoto, Kyoto, 2020.
『日本におけるアントニンレーモンド (1948~1976) 知人たちの回想』/Antonín Raymond v Japonsku (1948–1976) Vzpomínky Přátel, edited with Koichi Kitazawa, Aula, Prague, 2019.
”Framing Renshichirō Kawakita’s Transcultural Legacy and His Pedagogy” In: Marion von Osten and Grant Watson eds, bauhaus imaginista A School in the World, Thames&Hudson, London and New York, 2019.